遺言書の落とし穴


遺言書は慎重に書かないといけない。
わかっているつもりだったけれど、大事なことを「知らなかった」ばかりに、
せっかくの遺言書が、残された家族にかえって争いの種をまいてしまう結果になることも。
そんな「遺言書の落とし穴」、"12のポイント"をご紹介します。

遺言書は慎重に書かないといけない。
わかっているつもりだったけれど、
大事なことを「知らなかった」ばかりに、
せっかくの遺言書が、残された家族にかえって争いの種をまいてしまう結果になることも。
そんな「遺言書の落とし穴」、
"12のポイント"をご紹介します。


 

パソコンで作成した遺言書

Aさんは、遺言を書き遺すことにしました。
日頃愛用のパソコンで作成し、印刷を済ませました。
印刷された文字は手書きよりも読みやすいし、なによりも安心感があります。
「自筆」で遺言を残そうとした場合、パソコンで作成してしまったら、その遺言は、「自筆証書遺言」としては無効です。
「本人が間違いなく書いた」ということが確認されなければだめなのです。
 だから、「録音」「ビデオ」などによる遺言もやっぱりダメ。
 現在の法律では、そのような方式での遺言は許されていません。

遺言書の日付は大切です

Aさんは、自筆で遺言を書き遺すことにしました。
一字一字こころを込めて、丁寧に、読み間違えられることのないように慎重に書き記しました。
最後に、日付を書いておかなければと思い、暦を見ると、きょうはちょうど大安です。
そこで、「平成24年1月吉日」と書いておきました。
「吉日」としておけばいつのことか大体わかるだろう。・・・というわけにはいきません。
「大体」というあいまいな表現では非常に困ります。遺言がいつ作成されたのかは、大変に重要な意味を持つことになるからです。きちんと日付を確認し、正確に記載をするようにしましょう。

行方不明にならないように

とりあえず家族には内緒にして自筆した遺言書。
さてどこにしまおうか。
Aさんは、すこし考えて、自宅にある机の引き出しに入れておくことにしました。
自分専用の机だから、誰かの目に触れることはないだろうと思ったからです。
自分に万一のことがあるまでは知られたくない内容も書いておきました。
だからこれで安心です。
残念ながら、保管方法として、「安心」とはほど遠いものがあります。
「万一」のときに、家族が冷静に遺品の中から見つけてくれるとは限りません。
また、時間が経ってから見つかることがあったとしても、そのときにはもう遺産分割の話し合いがすべて済んでしまっている可能性もあります。
遺言書の保管には、次のふたつの点がとても大切です。

  1. 安全な場所であること。
  2. 家族に、遺言書の「内容」はともかくとして、「存在」はきちんと伝えておくこと。
ただ、「自筆」で遺言書を書いた場合、発見されない、あるいは遅れて発見されるという事態はつねに起こり得ます。
この危険を避けるためには、遺言書を「公正証書」で作成するとよいでしょう。
そうすれば、公証人役場がその原本を保管してくれるからです。
もっとも、その「事実」を家族が了解しておかなければいけないことはいうまでもありません。

認知症を診断をされてからの遺言書

Aさんは、現在、日常生活には支障がないものの、初期の認知症と診断されています。
症状がこれ以上、進まないうちに、同居している長男Xにすべての不動産を相続させたいと思い、遺言書を作成しました。自筆でしっかりと書き上げ、署名も日付も忘れずに書き入れました。形式に不備はないはず。これであとのことは心配がありません。
遺言をするためには、その遺言がどのような法律上の効果を生ずるものであるかを理解する能力が必要です。あきらかにこの能力を欠いた状態で作成された遺言書は、「無効」なものとされてしまいます。
「認知症」と診断されても、ただちに遺言をする能力が欠けている、ということにはなりません。症状にはさまざまな段階があるからです。
それでもこの事例では、Xの兄弟が、遺言の効力を争うことが十分に考えられます。

認知症など、遺言能力に疑いを持たれるおそれがあるときは、遺言は、公証役場で、「公正証書遺言」という方法で作成する方がよいでしょう。
この場合、Aさんは、公証人と面談し、遺言の意思を確認してもらうことになります。
また、作成する際には、証人2名が立ち合いますので、遺言能力がないのに遺言が作成されてしまうおそれは減らすことができます。

ただ、公証人が「遺言能力あり」と判断したとしても、裁判所でその遺言書を「無効」とされた例があることには注意を要します。
遺言能力の有無を最終的に判断するのは、裁判所の権限に属することだからです。

遺言書を勝手に開けてしまうと

Xさんは、父から「死後、開けるように」と言われ、「遺言書」と書かれ封印された封筒を預かっていました。父が亡くなり、親族が集まることになったので、その場で封を開き、内容を全員に知らせることにしました。
封のされた遺言書は、勝手に開封したらいけません。速やかに家庭裁判所に対し、遺言書の開封と「検認手続」のための申立てをする必要があります。
遺言者の最終の意思表示である遺言書。「検認」は、その真意を確認して、偽造や変造を防止するために民法が定めた約束事のひとつです。公正証書で作られた遺言を除いては、すべてに検認手続が必要となります。

この手続は遺言書の「検証」をするだけで、遺言内容の真否等、その効力を判断するものではありません。その内容に不満のある相続人は、別途、裁判で争うことになります。

なお、検認手続をせずに勝手に遺言書を開封した場合、過料制裁の対象ともなります。
相続が生じた際に封のされた遺言書が手元にあるときは、十分に慎重に取り扱うようにしてください。

「すべてをひとりに」は難しい

Aさんには、XとY、ふたりの息子がいます。
しかし、次男Yは、家を飛び出したあと、家族に迷惑をかけてばかり。
もう親子の縁は切ったものと思っています。
そこで、遺言書には、「すべての財産を長男Xに与える」と書いておきました。
相続人は、相続財産に対して最低限確保された「割合」が認められています。
この「割合」のことを「遺留分」といいます。

たとえば、両親二人だけが相続人の場合、遺産の3分の1が「遺留分」となり、父親と母親がそれぞれ6分の1ずつ、権利を持つことになります。

また、息子二人だけが相続人の場合には、遺産の2分の1が「遺留分」です。この事例では、XとYは、それぞれ按分した、4分の1ずつ、遺留分を持っていることになります。
「すべての財産を長男Xに与える」という遺言書の記載は、Yの遺留分を侵害していることになってしまい、Yはその限度で財産の取り戻しを請求できます。
なお、相続人が、Aさんの兄弟だけであるようなケースであれば、その兄弟には遺留分は生じません。

いずれにしても、遺言書を書くときには、「遺留分」のことはじゅうぶんに意識したほうがよいといえます。本事例でも、できればYに対して、遺留分に相当する財産を残してあげるようにするなど、あとあと遺留分をめぐる争いが生じないような手当をしておいてあげたほうがよいでしょう。

日常用語と法律用語

Aさんは、長男Xに、いま住んでいる家と土地を取得させたいと思いました。
そこで、「私の土地と建物は、長男Xに譲りわたす」という記載の仕方をしました。
日常会話では、よく「譲り渡す」という言い方をすることがあります。
しかし、遺言書の中では、ひとつひとつの言葉の使い方に慎重にならなければいけません。「譲り渡す」という用語も、じつは、「相続させる」という意味なのか、「遺贈する」という意味なのか、わかりにくいところがあります。遺言書に書くのだから、「相続させる」に決まっている。そうお考えになるかもしれません。

たしかにそう解釈するのが通常であることが多いでしょう。ただ、遺言書で、長男に特定の不動産を「遺贈」することも、法律的には可能です。いったいどちらがAさんの意思だったのか。遺言書を読む人がさまざまな解釈ができないように、この場合はやはり「長男Xに相続させる」と書かないといけないでしょう。

ぜひとも伝えたい「希望」

Aさんは、遺言書に「遺骨は生まれ故郷の海に撒いてほしい」ということを書き記しました。息子にそのことを伝えてみたところ、あまり気が進まない様子。でも、遺言書にきちんと書き遺すのだから、気が進まなくてもAさんの希望どおり、息子は散骨をしてくれるでしょう。なんの心配もいりません。
お気持ちはわかりますが、必ずしもご希望どおり息子さんが「散骨」してくれるかどうかは、たとえ遺言書に書いても、保証することができません。
遺言には、記載することで法律上の効果を生じさせることが認められている事項があります。でも、「散骨を希望する」という遺言に、強制力はないのです。「ペットの面倒をみてほしい」というような遺言も同じです。
ではどうしたらよいのか。

「負担付き遺贈」という方法が考えられます。

特定の財産を「遺贈」する代わりに、「散骨」をしてほしい。そのように遺言書に記載しておくわけです。その場合であっても、長男Xがこの「遺贈」を放棄し、散骨を拒否する、という可能性は否定できません。

このような希望は、いまのうちからよく家族間で話し合いをして、万一のときは希望どおりに進めてくれるように了解を得ておくのが、いちばん適切だと思います。

生前の好意に報いるために

Bさんには、相続人がいません。そこで、日頃から身の回りを親身に世話してくれていたPさんに、財産の一切を遺贈することを記載した遺言書を作成しておきました。
自分の財産を譲り渡したいと思えるのは、Pさん以外にはどこにも誰もいないのです。
問題点が二つあります。
ひとつは、ほんとうに「相続人」がいないかどうか、です。
自分では「家族」がいない、と思っていても、法律的には、甥や姪が相続人となる場合があります。したがって、相続人の有無については、あらかじめ戸籍などにより慎重に確認することが必要です。

もうひとつは、「誰がその遺言を実行してくれるか」ということです。
せっかく遺言書に記載したことであっても、身の回りに家族も誰もいない状況では、その希望がただしく実現されるとは限りません。
この場合は、遺言書の内容をきちんと実行してくれる人(遺言執行者)をご自分で指定しておくほうがよいでしょう。このケースに限らず、遺言執行者を決めておくことは、自分の最後の意思を実現するためには、大変に大切なことになります。

二代目に襷(たすき)を遺言で渡すとき

オーナー経営者のAさんは、事業のすべてを長男Xに承継させようと思っています。
そこで、事業用不動産について「Xに相続させる」という記載のある遺言書を作成しました。こうしておけば、万一のときでも、Xが事業を滞りなく経営してくれるはずです。
オーナー経営者ということは、会社の株式をすべて所有されているのではないかと思います。その場合、事業用不動産だけではなく、「株式」も相続人に、その法定相続分にしたがって承継されることになります。
その結果、どういうことになるのでしょう。

大事な会社の意思決定は、株主総会でしなければなりません。
しかし、その決定が、株主の地位を引き継いだ各相続人の意向に左右されることになってしまいます。後継者が円滑に、また迅速に事業を遂行することがむずかしくなる可能性が考えられます。

こういう事態を避けるためには、遺言書の中で、「株式」を後継者に相続させる旨を明記するようにします。ただし、他の相続人の「遺留分」にはじゅうぶん配慮することが求められることになります。

状況が変われば変えたい遺言書

Aさんは、昨年、財産すべてを長男Xに相続させるという遺言を公正証書にすることで作成しました。でも、その後の長男の様子を見て、その遺言が早計すぎたと思うようになりました。手元には、公証役場で作成してもらった遺言書の正本というものがあります。遺言をなかったものにしようと思ったAさんは、その遺言書をシュレッダーに放り込みました。
一度書いた遺言であっても、なかったことにすることができます。これを「撤回」といいます。撤回が認められるのは、主に次の3つの場合です。

  1. 新しく遺言を書いた場合
  2. 遺言書を破棄した場合
  3. 遺言で対象とした財産を、生前に処分した場合
Aさんは、手元にある遺言書を破棄しました。
遺言書を撤回したといえるでしょうか。
残念ながら、そういうわけにはいきません。
自筆で書いた遺言書の場合であれば、手元の遺言書を破棄するだけでも撤回したことになります。
ところが、公正証書で作成した遺言の場合、その「原本」は、公証人役場に保存されています。なので、手元にある遺言書をシュレッダーにかけても、破棄したことにはならないのです。

一度書いてしまっても、その内容を取り消したり変更したりするのは自由です。
誰の同意も必要ないし、前に書いた内容に拘束されることもありません。
ただ、きちんとしたかたちで取り消す(撤回)ことをしておかないと、あなたのその意思が反映されないことになってしまうのです。

内妻への心配り

Aさんには、長年、実質的に夫婦の関係にある、いわゆる内縁の妻Bがいます。
Bとのあいだには子供がいませんが、前妻との間に息子がひとりいます。
自分に万一のことがあったとき、いまの家にBが住み続けることができるように遺言を遺そうかとも思いましたが、わざわざ手間暇かけてそんなことまでしなくても、自分の財産はすべて、自然に同居しているBのものになるだろうと思っています。
内縁の妻Bに遺産を残したいと思っているのであれば、必ず遺言書を作成した方がいいケースです。実質的に夫婦であったとしても、入籍していない以上、法律的には「配偶者」とならず、Bが相続人になることはできないからです。
このケースでは、Aさんの財産が「自然に」Bのものとなるようなことはありません。すべて前妻とのあいだの息子が引き継ぐことになってしまいます。したがって、遺言書を作成し、財産をBに譲り渡す(遺贈する)ことを明らかにしておく必要があります。この場合、息子が有している遺留分についてはじゅうぶんに配慮することが求められるでしょう。

遺言書に潜む落とし穴をいくつかご紹介してきました。
ちょっとした考え違いや思い込みで遺言をしてしまったばっかりに、遺産をめぐるトラブルを起こしてしまうケースは、残念ながら枚挙に暇がありません。
遺言書については、このほかにも専門的なアドバイスが求められることもたくさんあります。
みどりの杜司法書士事務所では、遺言書に関するご相談を随時承っています。
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